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【舞台】海辺のカフカ 感想

こんにちは、やのひろです。

今日は舞台「海辺のカフカ」を見てきました。

 

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イギリスに住んでる演劇好きの親戚に勧められて

それはぜひ、と足を運びました。

 

村上春樹ノルウェーの森を昔読んだ程度、

この作品の原作は読んでいません。

あくまで演劇ファンとして観たので

ハルキスト目線での分析は期待しないでください(^^;

 

それではネタバレを含む感想行きます!

 

お芝居のあらすじ(本とは多少違うのかも)

もうすぐ15歳になる少年、田村カフカ

カラスとの対話によって家出することを決める。

父親の書斎からお金や雑貨をとって高松行きの夜行バスに乗り込んだ。

 

一方、猫と会話する力を持つ初老の男性、ナカタ。

彼は近所の猫探しに協力しているうちに

原っぱにやってくるという怪しい身なりの男性について情報を得る。

 

高松に着いたカフカ

佐伯さんという美しい女性がいる私立図書館に身を寄せる。

そこへ、父親が何者かに殺されたという知らせがはいる・・・

 

ーーーーーー

実際は川の水のように諸々のことが流れていくので

筋道立ったお話が展開していくような舞台ではありませんでした。

川にある大きめの小石を集めるとこんな筋書き、という程度です。

 

そんな小石を集めながら水の流れを感じていて

私が最後にたどり着いた感想はこちらです。

これはあくまでハルキストじゃない80年代生まれの感想だと

あらかじめお断りいたします・・・(ドキドキ)

 

これ・・・つまりエヴァンゲリオン

一緒にするなよ!とお怒りの方がいらしたらごめんなさい。。。

 

ですが決して作品をバカにするつもりは全くありませんので

よかったら最後までお付き合いください(^^;

 

15歳の少年が父親と対立して放浪した末に母親的な物と出会い

現実との接点を見つけて生活に帰っていく

 

ものすごく簡略化するとこういう話に受け止められて

おめでとうおめでとう、と思っちゃったわけですけど

これは別にカフカエヴァに似てるというわけではなくて

”日本人”を物語で綴ろうとするとこうなる、ということだと思います。

 

つまり両方とも同じテーマについて描いてるから

共通したものが核にあっても仕方ないよね、という。

 

日本文学科をギリギリの成績で卒業したやのひろが

大学で学んだことで覚えてる数少ないことの一つは

”日本文学は母と子供の対立と受容の物語である”ということです。

海外だと父と子供らしいのですが、日本で重要なのは母です。

 

これがいろんなところで利用されていて

宮崎駿氏のジブリ作品でも母と子供の関係が重要だし、

ファーストガンダムでも、エヴァでも、進撃の巨人でも

主人公が動く動機になるのは母親の存在なのです。

 

それが私にとってはたまたエヴァに代表されちゃってるだけですので

単純に似てる!ということを主張するつもりはありません。

 

掴みどころのない展開とポエムのようなセリフに

「この話どこに行くのかな?」と思いながら引き込まれたら

とてもシンプルで典型的な、そしてとても重要な、

日本文学の中心部分に向かっていたのだなぁと思った次第です。

 

独特のセリフと美しい演出で彩られていたけど

実は日本人の根本を描いていたのねと、私は受け取りました。

そんな時、私の世代は「エヴァっぽいね」と言っちゃうのかも^^;

 

あと・・・これってオイディプス王

観ていてもう一つ重なった作品はギリシャ神話のオイディプス王です。

父を殺して母と交わるという予言を受けた王子が

その運命を回避しようとするのに結局そうなっちゃう、という悲劇。

カフカくんも形は違いますが似たような道をたどっていました。

 

しかし面白いなと思ったのはその結末。

 

本家オイディプス王では、自分の運命を知ったオイディプスは

わが身を呪って自ら目を刺し、盲目となって国を追われて行きます。

 

ところがカフカくんはいろんな人に助けられた結果

東京に戻って警察に全て話し学校に戻ることを決意します。

 

いいっ!ここが日本っぽい!

なんていうか、ジメっとしてる(笑)

湿度が高い国の物語って感じがします。

 

父殺しの容疑をかけられた上に

母親ほど年の離れた女性と関係を持つって

普通に考えたら大変なことです。平然としていられません。

 

オイディプス王は、それは抗えない運命の所為であって

それに勝てなかった自分の不甲斐なさやら情けなさやらで目を突きます。

もう何も見ないし、何も頼らないという決意の表れのようです。

所詮人間は神の定めから逃れられないのだという

割り切った倫理観が背景にあるのだと思います。

 

一方カフカくんは自分の意志で高松に来ます。

お父さんはいつの間にか死んだし、殺されても仕方のない人だったし

佐伯さんは結局母なのか曖昧だから交わっても問題ないし

男性的な女性や日本兵の亡霊?に助けられて生き延びます。

 

要するになんにも ”定まって” ないんです。

 

自分がどうしようが周りは動いていく。

よくわからない理由で物事は進み、それが自分に影響してくる。

でも同じように、よくわからないうちに助けられることもある。

だから何だかんだ上手くいって現実に帰ることができる。

 

いや~、ほんとに。この感じ好きです。

一神教多神教の違いといいますか・・・。

こういう日本の、八百万の神のお蔭、みたいな曖昧さが

私は大好きです。

 

物事の座標は一つで、善悪がハッキリしている西洋価値観に対して

物事は環境に左右されて、価値基準はさまざまな東洋価値観。

”父を殺し母と交わる”を東洋でやるとこうなるよ、という例に見えました。

 

主演は古畑新之くん。いったい誰かと思ったら・・・

舞台を見ながらカフカ役の俳優さんは本当に子供なのかと思い

お節介にもいろいろ心配しちゃいました(笑)

 

この子、ほんとうに15歳くらいだわ・・・。

こんな若い、っていうかこんな幼くして

この難解な物語、厳しいと有名な蜷川さんの演出、

何よりとっても大人のストーリー。

それに世界ツアーって、いろいろと大丈夫!?

 

それにしてもこの舞台への溶け込み方、凄いなぁ・・・

 

と。

そしたらなんと私の勘違い、彼は24歳の俳優さんでした。

これにはびっくりした!24歳には思えなくて!

 

他の俳優さんはやっぱり舞台の上で「出してる」物があるんですね。

個性とか解釈とか、その俳優さんが持ってるものが「出てる」

 

でも彼は、出しながらも舞台全体を「受け止めてる」ように見えました。

なんていうかな・・・言葉にするのが難しいんだけど・・・。

凸と凹なら凹のほうというか。

カフカ君自信も数奇な道をたどりながら

他の不思議な人たちの物語をちゃんと吸収して劇場に漂わせてる感じ。

 

主役だし、あの難しいお話だし、

彼のお芝居が前面にグワァっとでてきても不思議じゃないと思うんです。

でもそういう感じじゃなかった。

 

だからまだ子供の俳優さんで

周りの演技を受け止める姿勢なのかな?と思ったけど

きっと違うんですね、

いろいろ計算されてそういう姿勢の演技をされてるんですね。

 

水、みたいな・・・。

他の俳優さんやセットなどが調味料とか具材で

彼自身はとてもおいしい湧き水みたいな・・・。

無色透明だけどとても重要で、それ自体素晴らしいのに他を受け止めてる。

それが合わさって本当においしい一皿ができました、って感じでした。

 

彼はいったい何者??と思ったらかつてgoogleのCMで

「水圧で空を飛ぶ!」と言っていた彼でした。

 

見た目が違うから分からなかった・・・!

 

これは嬉しかった!実はCMの時からチェックしてたんです。

何だろうこの子。上手いのか素人なのかどっちだろ?って。

他ではあまり見ない、不思議な魅力のお芝居でした。

 

あーゆーのに出てくる上手い俳優さんって

どこかの劇団に所属してる場合が多いので

あの演出家さんのとこか~なんて思ったりするんですけど

彼は劇団に入ってないし、事務所も知らないところだし、代表作もなく。

 

その後全然表舞台に出てこないので

あのgoogleの子はどこにいっちゃったのかな?って

たまーに想いを馳せたりしていたのです。

 

そしたらこんなところで、こんな大役で再会!!!

うわー、君だったんですか!と一人真顔で興奮しました。

嬉しかった~~(^^)

 

 

アクリルケースに入った世界

ぱっとみて最初に観客の心を揺さぶるのは

あのアクリルケースに入ったセット達だと思います。

 

全ての背景が大きな水槽のようなケースに収められていて

巧みな黒子さんたちによってシーンごとに箱ごと移動されます。

 

樹木や客間、大型トラック、あらゆるものが透明の壁で囲まれていて

それぞれが白々しい蛍光灯に照らされている・・・。

村上春樹文学に漂う”非現実感”が表されているのかなと思いました。

 

いつかカフカくんが大人になったら

あのアクリルケースは消えてすべてのものと繋がるのかな?

とも思いましたが恐らくずっとケースに入ったままでしょう。

 

現代を生きる私たちにとっても世界はまるで一枚隔てた幻のようです。

現実を正確にとらえて向き合えるほど、世の中は単純ではなくなりました。

あれは15歳の少年の物語のようで、

生きてる限り世界との接点を探し回る私たちの物語だと思います。

怖いですね。迷い続ける以外できることはないのでしょうか。

 

冒頭に書いたとおり、英国に住む知人に勧められてこの舞台を見ました。

 

これらの感想は

日本人であり日本で暮らしている私だか感じたものだと思います。

英国の人達はこれをどう受け止めたのか、

新鮮だったのか、日本的だと思ったのか、演劇として優秀だったのか・・・

ぜひ知人に話を聞いてみたいと思っています。

 

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外に出たらとてもきれいな夕焼けでした♪

それではまた!