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舞台 NTL 夜中に犬に起こった奇妙な事件 感想

待ってました!!!やってくれると信じてた!(><)

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NTL(ナショナルシアターライブ)とは

ロンドンにあるナショナルシアターで上演された演劇の中から

評判の良かったものを映画館で上映してくれるシリーズです。

毎年楽しみにしています。

 

この「夜中に犬に起こった奇妙な事件」は

もとはロンドンで出版されたベストセラー小説です。

 

ロンドン版はオリヴィエ賞(UKのトニー賞)を総なめし

満を持してブロードウェイに進出、

トニー賞演劇作品賞、演劇演出賞、演劇主演男優賞、美術賞、照明賞を受賞。

2015年のNY演劇でナンバーワンに輝きました。

 

中でも注目はトニー賞演出賞を受賞したマリアンヌ・エリオットです。

この作品はとにかく演出が素晴らしいとあちこちで目にしました。

 

彼女の演出をぜひ見てみたい!!NTL、お願いします!!

そんな念願かなっての観劇になりました(^^)

あぁぁ、本当にありがとう、NTL。

簡単なあらすじ

クリストファーは独特な15歳の男の子。

論理的で数学が得意、夢は宇宙飛行士、人の気持ちを察するのは苦手、という

いやゆる自閉症とされる個性を持つ。

母親は数年前に亡くなって今は父親と暮らしている。

 

ある日彼のお向かいの家で夜中に犬が殺されてしまう。

それを見つけたクリストファーは犯人扱いをされてパニックに。

彼は犬を殺した犯人を捜すことを決意する。

犬に起こった奇妙な事件は、やがて彼を思いもよらない事実へ導く・・・

 

「これ、どうやって演劇にしたんだろう?」

この舞台を見る機会がなかなか無かったのでまず原作本を読みました。

その時の感想がこれ↑です。ホントに一体どうやって・・・。

 

まず話がポンポン飛んでいました。

犬が殺された話、数学の話、学校の話、記号の話、過去の話・・・

こんな風に脈略も時間の流れも関係なく

エピソードがバラバラに書かれていました。

読んでいるとちゃんと流れが見えてくるのですが

普通の小説のように順を追って説明されるわけではありません。

 

別の機会に同じく自閉症の東田直樹さんが書いた

自閉症の僕が跳びはねる理由」を読みましたが、

それによると自閉症の方は記憶を線で繋ぐことができなくて

散らばった点のようになっているらしいのです。

クリストファーの記憶もたぶんそうなのでしょうね。

 

そんな自閉症の方独特の特徴があれこれ出てくるのを

演劇にしただけでもすごいのに、まして演出賞をとるなんて。

一体どんな舞台だったんだ!?とますます期待が高まりました。

 

アナログな演出、デジタルな演出

まず目につくのはデジタルな演出でした。

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LED、プロジェクションマッピング、などなど。

セットはほとんどなく、このように必要な情報がデジタル表示されます。

 

デジタルな演出はいくつか見たことがありますが

ドリームガールズやif/thenなど)

単純に背景を映したり装飾的に使われることが多い中で

この作品はクリストファーの心情をデジタルで表現していて

そこが新しいなと思いました。

 

でも私は、アナログな演出の方が印象的だった!

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これはクリストファーが宇宙飛行士になる想像をしているところです。

こんな風に人が彼を飛ばすんですね~。

 

足元のパネルには映像を映すことができるわけだから

例えば床に宇宙の映像を映して、

彼が一人でその上を動き回って宇宙飛行士の想像シーン

とすることも出来たと思います。

だけどそうじゃなくて、人の手が彼を飛ばしている。

 

他にも、クリストファーが家に帰ってくるシーンが何度かあるのですが

そこでも家の家具が人で表現されていました。

ドアを開ける、鍵を棚に置く、ベッドに寝転がる、

そのドア役、棚役、ベッド役が全部人間で居るんです。

 

彼にとって快適なこと、不快なこと

私たちからすると、クリストファーはいろんなことが出来ません。

電車に乗るとか人と会話するとか、そういう事は苦手です。

 

その都度そこにいる人にマイナス感情で対応されていました。

「何してるんだ!」「本気で言ってるの?」「やめてくれ!」などなど。

実際の人と関わるとき、彼はとても辛そうでした。

 

だけどクリストファーが快適に過ごす時、

例えば自分の空想に浸ったり、慣れた作業をしたり。

そういう時もまた、人間の手で描かれている、

そこが凄く暖かくて、とってもいい演出だなと思いました。

 

いわゆる健常者の人達は彼に冷たい、

彼が快適なのは彼一人の世界だけ、、っていうんじゃ

ちょっと寂しい。

 

彼は別に周りを困らせようとしてるわけじゃなく

彼には彼の快適な過ごし方があって

そこにもちゃんと人のぬくもりがある。

彼は私たちと違うように物を見てるだけで

同じように社会の中で生きているのだと感じました。

 

クリストファーに共感する体験

舞台を見ているとどんどんクリストファーに共感していきます。

自分は自閉症として経験したことはないのに

後半彼が無理矢理体をつかまれたりすると

「やめて!それはして欲しくないんだよ!」なんて思いました。

段々彼の好き嫌いが分かってくるんですね。

 

ロンドン版では舞台を囲むように客席があったようで

(NY版はおそらく普通に客席は前にあった様子)

演出のマリアンヌは「彼の世界を体験できるように」

と語っていました。

 

また映画が始まる前のインタビュー映像に出て来た女性も

「観客は舞台を通してクリストファーの世界を体験できる」

と言っていました。

(彼女は単なるスタッフではなく、もしかしたら自閉症の方かもしれません。

 案内が曖昧でちょっとよく分かりませんでした)

 

まさしくその通りで、

この舞台は自閉症の人がどんな風に暮らしているか

疑似体験できるのだと思います。

もちろん実際のそれは、もっと大変なこともあるのでしょうけど。。

 

街でクリスファーに会う人たちはみんな冷たいです。

困ってる彼に手を差し伸べることができません。

でもそれは意地悪なんじゃなくて

自分の常識から判断や理解ができないだけなんだと思いました。

 

そしてもし自分に同じことが起きたら・・・

優しくしてあげることはできるだろうか、と。

したくても、どうしたらいいか分からないかもしれない。

無意識に目をそらして知らんぷりするかもしれない。

 

具体的に何ができるかは分からないけど、

でも、彼には彼の世界があって、そこで幸せに暮らしたいんだ、

ということは分かりました。

私に私の世界があるように、彼には彼の世界がある。

大多数の人とは違う世界観かもしれないけど

それは人の優劣や価値の有無に関係ない。

私と彼とは違っていて、それぞれに世界があるだけのこと。

 

自分とは違う目を持ってる人たちを

自分の眼鏡だけで判断してしまわないようになりたい。

この舞台をみてそう思いました。

 

美しいエンディング

夜中に犬に起こった奇妙な事件は

クリストファーとその家族を思わぬところへ導きます。

 

最後、彼は学校で先生と話をしていて

先生にある問いかけをします。

 

そのシーンが!!

なんとも美しいの!!!

 

なんて希望のある終わり方だったんだろう。

あれだけのセリフで。あれだけのやりとりで。

彼のこれからは可能性に満ちているって、

生き難さを抱えた彼のこれからは、それでもきっと輝いてるって

もの凄い説得力で描いていた。

あー、本当に美しかった!!

 

デジタル演出はもちろん目を引きましたが、

この作品の素晴らしいところは

デジタルとアナログの演出技術を駆使して

社会を別の視点から、美しく、描いたことだと思います。