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【舞台】 ピピン ネタバレ感想

こんにちは、やのひろです。

ブロードウェイからの来日公演「ピピン」を見てきました。

 

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では今回もネタバレを含む感想、行きます!

あらすじ

不思議な技を次々に繰り出すサーカスのステージ。
ここを率いる女優、リーディングプレイヤーは
素晴らしい演技で面白い物語をお届けして
最後には一生忘れられないエンディングを見せると観客に約束する。

 

そこで登場するのは新人の男優。彼は今日が初舞台だという。

彼が演じるのはピピンという名前の王子だった。

 

"類まれな人生"を探すピピンはあらゆるものを体験するが

どれも空虚で充実感が得られない。

戦争、性欲、革命、芸術、宗教・・・

 

人生の目的を探し続けたピピンが最後に求めるものとは・・・?


古くから描かれている、自分探しの物語

主人公ピピンが自分の人生の目的を探す、と知って

キャンディードとアベニューQを思い浮かべました。

 

どちらも主人公が人生の目的を探してあちこち彷徨った結果

いま目の前にある幸せこそが最も大切だと気づいて

優しくも力強い雰囲気で終わるお芝居です。

こういう自分探し物語は

きっとNYで繰り返し描かれるテーマなんですねぇ。

 

キャンディードやアベQと違うなと思ったのは

1幕の途中に出てくるsimple joyという歌。

シンプルジョイ、シンプルな喜びについて歌ったものです。

 

戦争で功績をあげることこそ充実だと信じて戦場に出たものの

想像以上の過酷な体験に逃げ出すピピンに向けて

サーカスの女主であるリーディングプレーヤーが歌うものです。

 

彼はあらゆるものを持っていたがどれも必要なかった

シンプルな喜びが必要だ

自由を学ばないまま生きていくの?

死を迎えるその日まで!

 

↑こんな歌詞です。

この段階で「シンプルな喜び」や「自由を学ぶ」ことの

大切さを狂言回しである彼女が歌っています。

ピピンは特別な物ではなくて普通の暮らしを求めて逃げた、と。

 

にも関わらずこの後女体に走ってしまうところが

若い男の子らしいんだけど・・・笑

 

ピピンは最後になって日常的な愛情こそが大切なもので

何かにとらわれているから自由があるのだと気づきます。

 

ところが実はこの曲で既に”普通”の大切さを言ってるんですね~。

最後にたどり着く宝物が前半で登場しちゃってる。

 

ただこれは女主が筋書きとして出した宝物なので

これを最後にピピンが自分で選ぶところがとても大切。

 

”普通の幸せ”は他人から差し出されちゃダメなんですね。

自分で気付かないと大人じゃない。

んん~~~、深い!

 

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サーカスで繰り広げられるお芝居

冒頭でピピンは新人俳優ですと紹介されるものの

その後はほとんど「ピピンを演じてる俳優」の顔を見せないので

ピピンピピンのまま、つまり劇中劇の様子を見せません。

 

ところがピピンを助ける未亡人、

キャサリンが出て来たところで変わります。

 

彼女は登場シーンに失敗したり、

セリフの言い方をダメ出しされたり。

キャサリンとして登場するけど、

これは下手な女優が演じてる役なんだよと

観客に繰り返し提示されます。

 

キャサリンは2幕で登場するキャラクターですが

実は1幕目にも出ています。

子供を連れた女ピエロ役で、戦後のシーンでは首の切れた俳優を回収しに来たり。

 

つまり彼女は他のキャラより分かりやすく

「キャサリンをメインで演じる女優役」を演じるわけです。

 

極めつけは暗転を遮って歌いだしてしまうシーンです。

ピピンが「こんな平凡は耐えられない」とキャサリンの元を去ると

どうやらいつもはそこで暗転して終わるらしいシーンを止めて

アカペラでピピンへの愛をうたいだします。

 

「ここに歌はないでしょ」と怒るリーディングプレーヤーにも

「今日まではね」と答えて最後までピピンへの想いを歌います。

まるで、”昨日までのピピン役俳優にはこんなこと思わなかったけど

今日初めて舞台に立ったという新人の彼には心を動かされた”

というような展開。

ピピン役キャサリン役という垣根を超えて、彼への想いが溢れて来た、

そんなシーンでした。


全員が「与えられた役」を全うしている中で

キャサリンだけは自分の意志で行動している。

そして最後にはピピンもその道を選びます。

 

ピピンが筋書きを超えて自分自身で選んだもの

 

ピピンが探した類まれな人生の最終形は

壮大だけれどもバカバカしい「死」でした。

 

女主は彼に、燃え盛る炎に飛び込めと言うのです。

太陽と一体化し永遠に輝けと。

これこそが類まれな、選ばれた人にしかできない、

生きる目的なんだと。

 

みんなが炎に飛び込めとピピンに劇の全うを求める中、

彼は嫌だと役の継続を拒否します。

 

そこに予定外に現れるキャサリンとテオ。

居ても立ってもいられず出て来たようです。

 

怒ったリーディングプレーヤーはセットと俳優を撤収させ

オーケストラの演奏も止めて、ピピン、キャサリン、テオから衣装をとり

一方的にサーカスと舞台の終わりを告げてしまいます。

 

何も無くなり雑な舞台で立つ下着姿の俳優3人。

それはもう「役」ではなくて、人間です。

 

彼らは定められた「役」を降りて

自分の判断で自分が見つけた幸せのために生きることにしたわけです。

 

生きる目的が派手に死ぬことだなんて、本末転倒ですよね。

 

そうじゃない。

自分だけの類まれな人生なんて若いころに夢見る幻想。

そんなのを探し続けてると派手に死ぬことにたどり着いちゃうよ。

身近にある幸せをみてごらん。

それこそずっと探していた”類まれなもの”だよ。。。

 

これは今まで見た”自分探し系”のエンディングのなかで

一番好きでした!!!

女主の言う通り、一生忘れないエンディングだったと思います。

「自分で生きろ」というアメリカらしいメッセージを

かなり衝撃的に、美しく、受け取りました!

 

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次の世代に受け継がれる、リバイバル版ラストシーン

ピピンのラストシーンはリバイバルにあたり変更されたようです。

youtubeで初演版の映像を見た時は

ピピンとキャサリンが暗闇に消えて終わりでした。

テオがCorner of the Skyを歌ってまたサーカスが戻ってくるのは

2013年版に改定されたラストなんですね。

 

このラストがまた、すごくいいと思いました!

 

ピピンの物語はキャサリンというゴールにたどり着くことができた。

でも若者の物語はピピン一人で終わるわけではない。

 

次に青年となるテオに受け継がれて、

彼もまた類まれな人生を探し出す。

きっとテオもあれやこれやと探し求めた結果

穏やかな愛情の大切さに気がついて誰かと結ばれるのでしょう。

 

そうやって繰り返していくのが人間だよ、

というメッセージに受け取れました。

 

サーカスに残って刺激を受け続けるのは、実は難しい。

若い時はそれにあこがれるものだけどが

経験を重ねるとそれより大切なものが見えてくる。

そんな人生の普遍的なものを訴えてるんじゃないのかな。

 

いやーもう何重にも深い!!!

ピピンが自分の人生を見つけただけでも充分なエンディングだけど

ここにテオが加わることで厚みが増すというか

これは繰り返される、という構造になった。

 

これは元々ベトナム戦争のころ上演されたもので

反戦のメッセージも込められているそうです。

 

そう思うと・・・

「争いに憧れても意味ないよ。大事なのは日常だよ」

「若いころは自分探しに焦ってもいずれ気づくときがくるよ」

このお芝居はそういう意味かと。

 

そしてテオのシーンで

「結局はいつの時代も、普通の幸せを大切にしたくなるのさ」

という意味が加わったのだと思います。

 

うまい!さすが!すてき!

あの短いシーンがあると無いとでは大違いです。

んんんー、すごいなぁ・・・

 

すごいぞ、来日公演!


来日公演で楽しめたのは初めてです!

・・・生意気ですみません!

いや、来日公演って難しいんですよ。。

 

ピピンは2013年のトニー賞の時から見たいと思っていたので

来日公演は嬉しかったのですが正直期待してませんでした。

 

というのも。

来日公演というのは俳優さんがイマイチなことが多いんです。

 

ブロードウェイの舞台に立てる俳優さんがとにかくナンバー1で

こういうツアーに出る俳優さんは修行中の方がほとんど。

そういう方が超一級の作品を演じることになるので

作品と演技のバランスが悪くて消化不良になる事が多いんです。

 

ピピンはアクロバットな舞台だとは知ってましたから

これを微妙な演者さんがやったらグズグズになるんじゃないの・・・

と思ったんです。

 

それが!!

今回の来日公演はどうやら素晴らしい方揃いだったらしく!

1曲目終わった時点で気分はNY、

この公演を企画した共同トーキョーに感謝しました。

素晴らしい公演をありがとう、甘く見ててごめんなさい!

 

ピピン役のブライアン・フローレスは

正真正銘新人だったようですが歌も踊りもうまかった。

NYでも主役が新人ということはたまにありますが

みんな超上手いのでビックリします。
彼はこれからNYでも活躍するかもしれません。要チェック!

 

カール王役のジョン・ルービンスタインは

初演ピピンのオリジナルキャスト。わお!!!

youtubeで初演も観ましたけれど、あのクルクルカールの細い彼が・・・。

オリジナルの主役がリバイバル版で父親役を演じるなんて、

粋な計らいですね(^^)

 

おばあちゃん役のプリシラ・ロペスは

コーラスラインでキャシーの初演をされた方!わお!!!

 

途中空中ブランコでアクロバットを披露するシーンがありまして

おばあちゃんヤルゥ!と拍手喝采、

ショーストップになる見せ場なのですけれども

コーラスラインのキャシーって

一人で数分間踊り続けるシーンのあるタフな役なんです。

あれをオリジナルでされた方なら

お年を召されてもアクロバットやれるかも・・・

さすがブロードウェイの俳優さんたちは

鍛え方が違うな~と思わされました。

 

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あと私が好きだったのは継母役のサブリナ・ハーバー!
ピピンでは元は女性役達の補欠だったらしいのですが
いやいや素晴らしいダンスでした!!


彼女のナンバーは最後、

イナバウアーのように上半身を後ろにガバっと倒すのですが
そのしなやかで力強いこと!!!

いったいどんな訓練をすればこんな動きができるのと

始終うっとりして見ていました。

この方でも代役からスタートだったなんて

ブロードウェイって厳しい!!!


フォッシースタイルを継承したダンスと

スティーブン・シュワルツの歌

元の振り付けはかの有名なボブ・フォッシー

振付は一新されましたが担当はフォッシーの後継者である

チェット・ウォーカー。

フォッシースタイルももちろん顕在でした。

 

シンプルな動きなのに最高にカッコいいんですよね!

全身張りつめてるのに、腰だけが艶めかしくクイッと動くとか。

肩だけが動く、足だけが動く・・・

静と動のメリハリが利いてる。

少ない動きでシビれるほどクール!

あー書きながらも思い出されるわぁ。。

 

フォッシースタイルが一番色濃く残っていたのは

やはりGROLYでしょうか。

気の抜けたポワポワした音に乗せて

3人のダンサーが笑いながら踊るの。素敵だった~。

 

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私はRIGHT TRACKも好きでした。

外したリズムと怪しいダンス。

段々うまくなるピピン

2部の導入曲は少しダレることが多い気がしますが

これは物語にぐっと戻れる良いナンバーだと思います。

 

そう、音楽が凄く良いなと思いました。

どれも全部聞きやすいし、歌詞も難しすぎないし。

よく聞くとパターンの幅が広くて全然飽きないんです。

いつもは数曲くらい「これは要るのか?」って曲があるけど

ピピンにはありませんでした。全部好きだった。

 

と思ったら作曲はスティーブン・シュワルツ。

あのウィキッドと同じ人でした!どうりで!

ウィキッドのナンバーもどれもドラマチックですものね~。

ディズニーアニメーションの音楽を担当したこともあるそうです。

確かに1幕のキャラ紹介ナンバー達はディズニーっぽい。

 

私は英語でミュージカルを見る時は

事前に全曲翻訳するようにしてるんです。

字幕を追うのに必死になると演出などが理解しきれないから

歌詞の内容は先に知っておきたいなと。

 

ピピンの曲たちはとても翻訳しやすかったです。

まずメロディーが良いから作業がはかどったし(笑)

歌詞とメロディーの組み合わせがなじんでて

とても訳しやすかったです。

観劇が終わった今でもiphoneに入ったままでよく聞いてます♪

 

 

素晴らしい題材と振付と音楽。

リバイバルはそれに加えて色彩豊かで

サーカスやマジックも観てて楽しい。

まさにエンターテイメント!

それでいて最後ちょっと感慨深く明日への希望が湧く。

本当に良い舞台でした!

見に行けて良かった(^^)

 

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それではまた!